ピントの合った世界を歩く
視力が低下しています。眼科へ行って下さい。
そう健康診断で言われてから、約半年経過し、やっとメガネをつくった。
流行っているデザインのものにした。
かけてみたら今時の顔になった。
それがとても嬉しかったから。
メガネをかけた自分の姿がまず可愛い。
そしてこんなに視界がクリアだったのは、いつぶりだろうか。
全部見える!!と思った。
いや、実際はメガネを通しても見えなくなっているものも全然あるんだけど、そんな気分だった。
退勤後、色々なものが見たくて外へ飛び出した。
在宅勤務の狭い部屋では、遠くを見ようとしても限界がある。外はいくらでも距離のあるものが見えた。
ずっとぼやけていた数百メートル先の街灯、頭上の看板の文字、遠くの信号機。パン屋のパン、自販機、コンビニの貼り紙。
全部、見える!!!!
それは、かつての私が見ていた世界だった。
いつの間に失われていたのかもわからない。
見えにくくなっているのはわかっていたのに、メガネをかけて初めて、見えていなかったことに気付いたのだ。
嬉しくて嬉しくて、叫びだしそうだった。
叫べないので歌いたかった。
歌ってもまずいので、マスクの中で口パクしていた。
走りたかったけど、メガネに何かあったら嫌だから、ズンズンと大きく速く歩いた。
こんな高揚感もいつぶりだろう。
この街に暮らして3年は経つ。
まだこんな気持ちで散歩ができるのか。
ピントの合った世界は不思議とそれだけで新鮮だった。