忘れていいよ
新しい仕事に就いたばかりのとき、覚えることが多い上にとても細かい内容ばかりだった。
記憶力が良い方じゃない自分は、ひたすらメモをとり、何回も確認したが、なかなか身に付かず狼狽えていた。
その愚痴を友人に話した。
友人は、
「でもいつかは、それを全部忘れていい日がくる。私はそのために頑張って覚えてる。」
と言った。
衝撃を受けた。
そんな考え方ある!?
と思った。
忘れていいくらいに自分で動けるようになる、みたいなニュアンスではなかった。
忘れる解放感のために覚える、という意味だった。
当時の私は、今立っている場所にあるものを叩き込むことに必死だった。
そんな角度で物事を見る余裕はなかった。
なかったし、これだけやっても忘れてしまうなんて、そんなの…!
だが、友人は明らかに前向きな気持ちで「忘れていい」という言葉を使った。
いっぱいいっぱいの自分の頭に、風穴が空けられたようだった。
その仕事を、数日前に辞めた。
辞める間際のしんどい時期に、友人の言葉を思い出した。
そうか、もうすぐ全部忘れていいんだ。
解放感と安心感があった。
積み上げていったものが、無かったことになるのは苦しいことだと思っていた。
でも、「もう手放していいんですよ」と自分に対して許すことは、そう悪いものではない。
これからどんな生活になるかはわからないが、この言葉は折に触れて私を助けてくれると思う。