最後に誰かの前で泣いたのは
路肩で、自転車に乗った女の子と原付に乗った男性が、止まって話していた。
二人の様子から、見知った者同士のようで物騒な気配もなかったため、特に気にもとめず脇を歩いて通りすぎた。
女の子の鼻を啜る音が聞こえた。
確実に泣いている音だった。
男性はその子の兄弟なのか、先生なのか、親戚のお兄さんなのかわからないが、何かを熱心に諭している様子だった。
その脇をただ通りすぎた。
人前で自分が最後に泣いたのはいつだったろう、とふと思った。
基本的に人に涙を見せないようにしている。
というか、もう今はそんなに泣かなくなった。
映画やアニメで感動して泣くことはあっても、
人前で堪えきれず涙を流すなんて、そうそうない。
最後がいつだったか。
思い至ったのは、数年前に職場で泣いたときだ。
会社のお金に関する大きな失敗があり、それを全て自分のせいのように責められたことがあった。
2時間くらいして、それは全て上司の勘違いで、そもそも失敗は起きていなかったことが判明した。
安堵なのかわからないが、普通に職場で涙が溢れたのはそれが最初で最後(現時点)だ。
忘れられない。
職場で泣くなんて最悪だ!という悔しさと、上司絶対許さねえ!という怒りで、忘れられない。
これが人前で泣いた最後の記憶か…。
なんだか苦い思い出だと思った瞬間、いや違うこれではなかったと思い至る。
友達の結婚式で泣いた日が最後だ。
二年ほど前のことだ。
十数年来の友達だった。
何の涙なのか、流しながら正直よくわからなかった。
でも、胸がいっぱいになったことはよく覚えている。
まだ子どもだった頃の顔がはっきり浮かぶような人だったからかもしれない。
共に出席した友人たちも同じくらいの年月の付き合いだった。
この十数年、本当に色々大変だったよね~!!
という気持ちが湧いてきたことによる涙だった気もする。
でもどうにか生きていればこんなに素晴らしく、めでたい日もあるんだ。
愛というものを信じさせてくれるような瞬間を、見る日もあるんだ。
あれが、最後の涙であればいいなと思う。
あんなに晴れやかな涙を流せることは、人生で数えるほどしかないだろう。