マントが脱げる日のこと
人に優しくされ続けている。
とりまく環境が良くなったと感じる。
大丈夫ですよ、と度々言われる。
そんなに不安がらなくても、大丈夫ですよと。
北風と太陽の話を思い出す。
旅人は風が強まるほど、マントの裾をきつく持って、身を固くした。
私が生きてきた日々は、そういうものだったのだと思う。
頑丈なマントなどそう存在しない。
それでもどうにか北風の寒さから身を守り、吹きすさぶ風が運ぶゴミや砂に体を痛めないように、マントを着込んでやり過ごした。
マントは私にとっての隠れ蓑で、無くてはならないものだった。それに守られていたのは事実だ。
暖かな日差しのように、降り注ぐ人々の優しさが、私のマントを脱がせた。
マントの不要な状態が、どれほど身軽で、気楽であるか。
そうなって初めて、私はしっかり目を開け、進むべき方角を確かめることができる。
マントを着込み、身を固くしているだけでは、周囲を見渡すことも振り返ることもできなかった。
特別なことではないのだと思う。
空気の良い場所にしましょう、と自分に関わる人たちが常に気をつけてくれている。
その姿を見て、私もそうでありたいと思った。
またいつか、マントが必要になる日は来てしまうかもしれない。
それでも、私にもマントを脱いで良かった日々があったということは、覚えていたいと思う。