死神の気配
8月の上旬、いなくなりたくて仕方なかった。
なぜそうなったかはわからない。
とにかく消えて無くなりたい。
今すぐ、霧散するように無かったことになりたい。
暑い夏だったが、夜は比較的涼しかった。
自宅にいると本当に何かしてしまいそうで怖かったのもあり、あてもなく散歩に出た。
音楽を聴きながら、昼間と違って体に優しい気候の中、心地よいはずの時間を過ごしながら、頭の中ではもうここからいなくなるしかないという強迫観念が浮かび続ける。
なんで?
と冷静に思う自分もいた。
本当になんでかわからないが、何をしても気が紛れないのだ。
とりあえず今日はやめておこう。
一~二時間くらいノロノロ歩いて多少の疲労感を感じ、全てが面倒になり、浮かんだ気持ちは翌日へ持ち越す。
そんな夜が続いた。
死神の気配を感じた。
死神とは存在ではないのだと気付く。
死を選ぶしかもう選択肢はないという考えが消えない日々。
死神は頭の中に居座り続け、特に夜になると頭を超えて身体にまとわりついてくる。
スライムみたいなイメージ。
そんな日々をどうやり過ごして抜け出したのか、今になるとわからないし、
特に明確なきっかけがあったわけじゃないと思う。
なんとなく、体調が良くなって、人混みが苦じゃなくなって、外にも出かけられるようになって、人とも楽しく話せるようになって、
そんな感じで回復しただけの気がする。
全部なんとなくだ。
始まりも終わりも。
また死神の気配を感じる日々がやってきたときのことを思うと、どうすればいいかわからず怖い。
運良く逃げきれる場合ばかりじゃないはずだ。
その気配に飲まれてしまった時、私は取り返しのつかない場所に居る。
音楽も、大切な人の言葉も、美味しい食事も、心底楽しめる娯楽も、安らぎを感じる時間も、何も届かなくなった場所。
引き返して来れる自分でいて欲しい。
今はただ願うしかないけど、そう思う。