野菜を炒めて煮た匂い
職場からの帰路、ヘロヘロと歩いていたら、周辺から料理中の匂いがした。
野菜を炒めて煮ている匂いだ。
玉ねぎ、ニンジン、ジャガイモ。
カレールーを入れる前のカレーの匂い。
匂いを感知した瞬間、バッと昔の光景がよみがえった。
昔家族で住んでいた借家は、古く小さな青い家だった。
大家さんの広い庭の一角に建っていた。
私は毎日のように大家さんの広い庭で遊ばせてもらっていた。
夢中で鬼ごっこやらかくれんぼやらしているうちに、辺りは薄暗くなっていく。
夕方を知らせる音楽が、電柱に吊るされたメガホンから音割れしながら鳴る。
ふと家の前に立てば、台所の窓が明るい。
家の窓はすりガラスで、母のぼんやりとしたシルエットが動いている。
換気扇からなのか、野菜を炒めて煮た匂いがする。
今夜はカレーだ。
青い家の外壁はトタンで、少し汚れていた。
匂いを感知して、一瞬だったがこの光景が勝手に目の前で上映された。
匂いは記憶と直結しやすいらしい。
カレーライスそのものより、私はこの野菜を炒めて煮た段階の匂いが好きだ。
この香水が売ってたら欲しい。
今夜はカレーだという嬉しさがくっついてる匂いだからかもしれない。
遊び疲れて、ただいま!と帰れば、家族とカレーが待っている。